【第2章】-中学生- 受験戦争、それは不安との戦い

名門の大学を出ると、いい会社に就けるらしい。
母は高卒で、学歴がなかったことで
苦労したことも多かったようだ。

 

物心ついた頃から、
どうやったらお金持ちになれるかを考えていた。

手っ取り早くお金を稼げるようになるには、
子供のうちはとにかく勉強すること。
そして将来良い大学に行く。

そうすれば優良企業に就職できて
高給取りになれるらしい。

母からの猛プッシュの影響は否定できないが、
自分でも考えに考えた末、

出した結論は、
「いい大学に行って、給料の高い会社に就職する」

という至極一般的な回答に落ち着いた。

なりたい職業などなかった。

いつぞやの学校の授業で書かされた将来の夢は、サッカー選手。

もちろんサッカーを本格的にやった経験などない。

とりあえず勉強しとけばなんとかなるだろう。

なりたいものが決まらなかったとき
できるだけ選択肢を増やしておくには
やはり進学が無難だと思った。

自然な流れで勉強を頑張ってみることにした。

理想の子供像の最大公約数が
正味勉強に励むことというのは薄々感じ取っていた。

子供が勉強机に向かうことは
数多くの大人同士の紛争を解決する。

 

 

実際に本腰を入れて勉強し始めたのは
中学生になってからだ。

地元で最も偏差値の高い高校に合格するため、
定期テストは死に物狂いで臨み、
塾で開かれる模擬試験も
積極的に受験した。

内申点のために学級委員に立候補してみたり、
風紀委員の委員長になってみたり、
委員会活動にも積極的に取り組んだ。

最初は受験のためと思って従事した委員会活動も、
やってみると案外たのしくなってくるものだ。

学級委員になって、
クラスをまとめる大変さを痛感した。

大声を出したからって人は聞いてくれないし、
正しいからといって人はついてきてくれない。
リーダーというのは大変だ。

責任感とプライドから
自然に成績を気にするようになり、
周囲に涼しい顔をしておきながら
裏では必死に勉強に取り組んだ。

風紀委員のくせに遅刻が多くて、
"風紀を乱す風紀委員"
という二つ名を与えられたこともあった。

何かやらかすたびに「申し訳ない!」と平謝りしつつ、
腹の中では、周囲にあーだこーだ注意されながら、
委員長として振舞う自分に酔っていたのは
流石にバレていただろうか…

そうこうしているうちに2年の月日が過ぎ去り、
あっという間に3年生を迎えた。

勝負の年である。

「この点数だったら受かりますか?」

私立高校の受験を済ませ、
本命である公立高校の受験を来月に控えていた。

受験前最後の模試の成績表を握り締め、塾の講師に尋ねた。

「だから、模試の成績はあくまで指標に過ぎないんだから
断定はできないって。
例年の傾向から言うと
お前は大丈夫だよ。何回聞くんだお前は…」
先生はもうお手上げ、
といった具合に呆れ返っていた。

質問は3度目。
それも同じ先生に…

その先生は受験前だろうと
他の講師のようにテキトーなことを言わない人だったから、
心底信頼していた。

今思えば気の毒だったと思う。
講師の立場上、
受かるとも受からないとも言えるわけがない。

受験直前なんか特に。

結局、最後はいつも統計の話に落ち着いてしまう。

データ上は決して戦えない成績ではなかった。

市販の予想問題を本屋で買って解いてみたときも、
判定は合格圏内だった。

しかし、最後まで心の中に巣食う不安を拭うことができなかった。
どんな情報も嘘なんじゃないかと疑った。

縁起もどれだけ担いだかわからない。

キットカットは
包み紙だけでゴミ箱が溢れ返るほど食べた。
正月の元朝参りでは
賽銭箱に500円玉を投げ入れた。
試験のときは
脇に湯島天神の鉛筆と五角形鉛筆を机上に置いた。
シャーペンしか使わないのに…

本番で起きうる最悪の状況を想像しては震え上がった。

苦手な問題が集中したらどうしよう。
受験中シャーペンが壊れたらどうしよう。
名前を書き忘れたらどうしよう。
睡眠不足で頭が回らなかったらどうしよう。
当日お腹を壊したらどうしよう。
雪で遅刻したらどうしよう。

合格する確証が欲しかった。

この世界に"絶対"なんてことは、
それこそ「絶対に」ないのだけれど。

 

試験日当日、
遅刻することも体調を崩すこともなく、
無事に試験会場にたどり着くことができた。

とりあえず失格だけは免れたわけだ。

受験票を片手に指定の教室に入ると、
そこには閑散とした空間が広がっていた。

荷物が掃けられ、壁にやたら画鋲の穴が
たくさん開いているエリアがところどころ目立った。
普段は掲示物を貼るゾーンなのだろう。
室内からはヒノキのようなにおいがした。
部屋の隅には埃が溜まっていた。

時間に余裕を持って行ったが、
数人の受験生が既に席についていた。
室内は暖房が効いていて暖かく、
試験監督の先生が静かに席に誘導してくれた。

徐々に緊張がほぐれていった。

試験は一瞬で終わった。
ほとんど内容は覚えていない。

結局、予期していた諸々の事態は起こらなかった。
唯一、試験結果を除いて。

第一志望の高校は不合格だった。

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