【第5章−2】-大学生- 選択と集中

友人と話したりして現状の悲惨さを認識し直すと、
やはり研究と就活とで揺れた。
(一応公務員という道もあるが、
公務員は監獄に入るのと同じだと思っていたので
最初から選択肢に入っていない。)

自分に研究なんてできるんだろうか。
どうせいずれは就活するのだから、
始めるなら早いに越したことはないのではないか。

ただ、
インターンに足を運んだり、
エントリーシートと格闘したり、
自己分析にのめり込んだり、
SPI(資格)の取得に腐心したり、

そういう小手先のことに脇見して
ジタバタするのが腑に落ちなかった僕に、
残された道は自明だった。

 

3年次の間は就活を一旦脇において、
研究に集中することにした。
バイトも全て辞め、
奨学金と貯金を切り崩す生活に切り替わった。

退路を断つというのは
人の行動力を上げる劇薬だ。
セールスにおいても
欠かせない要素だったりする。

 

専門知識に加えて
自分の研究テーマに関する知識、
そして実験の手技も同時に頭に突っ込みながら、
尚且つデータを出さなければいけない。

3年次でまだ授業も続いていたので
講義に出席しながら実験の時間を捻出する必要があった。
あと一応テストもやっつけなければならなかった。

 

昼夜問わずとにかく研究室に通い詰めた。

食事も睡眠も二の次で、
実験しては失敗し、
失敗してはまた実験しを繰り返した。

実験するか論文をサーベイするか以外のことを一切しない。
この生活を少なくも半年間続けた。

配属早々ここまで入り浸る学生は珍しかったらしく、
さすがに卒業単位や就活について周りから心配された。
気持ちはありがたかったが、
正直そんなことはもうどうでも良くなっていた。

不思議な感覚だった。
就職は自分にとって死活問題のはずで、
受験に匹敵するほど重要な問題だ。

それを蹴って、
必ずしも結果が伴うとは限らない
研究漬けの日々を送っている。

それなのに不安や焦りが一切ない。
驚くくらい心が穏やかだったのだ。

肉体が疲労困憊していると
精神の方にエネルギーを回す余裕がなくなるからだろう。

余計なことを考える暇がなくなるくらい
多忙を極めていたのだ。

ワーカホリックな人が頑張り屋だとか、
単なる仕事中毒などという認識は間違いだ。
何もない時間が息苦しくて、
生きるのに耐えられなくて、

なんとか仕事に没頭することで
生を保っている状態の人のことだ。

 

年度末になると進捗報告会が行われる。
普段の報告会のような当座の結果だけでなく
テーマ全体の進捗を
一人一人発表していく。
内容によっては進級にも関わる
大事なカンファレンスだ。

発表直前は、受験前さながらに緊張した。
他のメンバーの進捗に触れる最初の機会でもあって、
期待で一層胸が高鳴った。

これまでの集大成を存分にぶつけた。

ひとり当たり持ち時間7分で進められていく。

7分ぴったりで発表し終えるもの、
明らかにデータが足りず
緒言(イントロダクション)が長々としていて眠気を誘うもの、
一方、データが豊富で割愛が多く
質疑応答でやっと詳細が伝わるもの、様々だった。

発表の間は伝えることと
質疑に答えるので精一杯だったが、
報告会が終わって一息ついたあたりで
ようやく達成感が遅れてやってきた。

 

報告会を機に僕は
自分を信じられるようになっているらしかった。というのも、受験のときもバイト漬けだったときも
人の指示なしでは何一つ行動できなかった自分が、
まがいなりにも自分で考えて行動に移した結果として
一定の成果を収めることができたのである。

研究者になろうなどという発想こそ湧かなかったものの、
将来自分の能力で社会に貢献したいと強く思うようになった。

その年の春休み、
ネットビジネスというものを知った。
雷に打たれたような衝撃が走った。

きっかけは、アウトソーシングサービスで
お金になりそうな仕事を気分転換に眺めていたときのことだ。

自分の能力に応じて報酬が得られるという
理にかなった世界がそこにはあるらしかった。

ネットという性質上
リアルビジネスよりお金がかからないのは
なんとなく理解できた。

ただ、ネットビジネス特有の怪しさが
漂っていたのもまた事実だった。

業界ではネットビジネスに対して
実店舗を持つビジネス(飲食店経営など)
をリアルビジネスと呼んだりするが、

ビジネスをやったことがない素人にとって

リアルの対義語は"フェイク"だ。

ネットビジネスなんて
所詮フェイクだろうと高を括った。

どこまでも怪しさは払拭されなかった。
ただ、深く調べていくなかで、
胡散臭い人は山ほどいるけれど、
成果を出している人が一定数いるのも確かだった。

ネットビジネスが怪しいという以前に
そもそもビジネスの知識がないのは論外だ。

ネットビジネス界隈の人にも失礼だろう。

まずはビジネスの知識をつけようと思った。
文句を言うのはそれからだ。

知識が乏しければ
解像度の低い映像で世界を見ているようなもので、
クリアに覗こうと思ったら
知識は不可欠である。

これは血眼で研究しながら獲得した知見だ。

 

ちょうど年度の変わり目で
奨学金貸与額の変更申請できるタイミングだった。
これを機に満額でお金を借り、
借りたお金はほぼ全てビジネスの勉強に投資した。

最終的に教材費に200万円注ぎ込んだ。
今考えればとんでもない金額だが、
ビジネスを学べば経営する側の視点が身につく。
就職した後も必ず生きるだろうし、
一生腐らない知識だと思った。

それから卒業まで、
研究とビジネスの勉強との
二足の草鞋を履いた大学生活をおくることになる。

3年次の時点で卒論はほぼ完成していたので、
空き時間はビジネスの学習に充てることができた。

残り一年は実験するか、
論文を読むか、
ビジネスの勉強をして消費した。

研究テーマで論文を書き上げたかったのと、
ビジネスの学習と実践の期間がもう少し欲しくて、

大学院進学を決めた。

 

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